三井ヒストリー

三井の歴史を体現する、
後世に受け継ぐべき文化遺産の数々

三井が伝える美の伝統Ⅳ

(三井記念美術館開館15周年記念特別展より)

三井記念美術館は2020年で開館15周年を迎える。それを記念し、また東京オリンピック開催に当たっての「おもてなし」の気持ちを込めて、7~8月に特別展「三井家が伝えた名品・優品」が開催される。展示品は国宝・重要文化財を含む三井家伝来の中でも最高の美術品をセレクト。今回は誌面にてその一部(5点)を紹介しよう。

三井記念美術館が所蔵している美術品のほとんどは、北三井家をはじめとする三井各家からの寄贈によるものである。その数はおよそ4000点にもおよび、江戸時代の17世紀後半から20世紀前半の昭和初期まで、約300年間にわたって集積されてきた。

開館15周年を記念するこの度の特別展では、その中から東洋の古美術として中国絵画や墨跡、陶磁器や漆器、中国の碑拓法帖、敦煌経、また日本の古美術として日本画や古筆などの書跡、陶磁器や漆器、超絶技巧の工芸(牙彫・金工など)、能面、刀剣などが多数展示される。いずれも国宝・重要文化財を含む館蔵品の核ともいえる名品ばかりで、その質の高さには驚きを禁じ得ない。今回の特別展に先がけて、誌面にて展示品の一部を紹介する。

「第1部 東洋の古美術」
(7月1日~7月29日)の展示品

【茶道具】

三井記念美術館の所蔵品は茶の湯に関するものが多く、全点数の半数を超す。ここに紹介する『玳皮盞 鸞天目』は室町三井家より寄贈された品で、12~13世紀の南宋時代に中国山西省の吉州窯で焼かれた天目茶碗である。

玳皮盞の名称は、釉調が玳瑁(ウミガメの一種)の甲羅に似ていることによる。また、茶碗の内側(見込)に描かれている鳥は、中国の伝説の霊鳥「」といわれ、こうした花鳥などの文様のあるものが特に珍重されている。格付けは、近江小室藩主で江戸初期の名茶人でもあった小堀遠州(遠州流の祖)の目利きで選ばれた中興名物。常陸国土浦藩主・土屋政直(江戸前~中期の老中)をはじめ、さまざまな人の所有を経て室町三井家に伝わった。

玳皮盞 鸞天目(重要文化財)

南宋時代・12~13世紀/室町三井家旧蔵

【絵画】

三井記念美術館が所蔵している絵画は、古いものは中国絵画で、日本の絵画は室町以降のものに限られている。『花鳥動物図』は中国清代の画家、沈南蘋の筆によるもの。沈南蘋は享保16年(1731)に浙江省より渡来し、長崎に約2年滞在した。その間、写実的で鮮やかな彩色を特徴とする作風の技法を伝えた門人(熊斐)を通じ、円山応挙をはじめとする江戸中期の日本の画家に大きな影響を与えた。この花鳥動物図は全11幅。江戸時代から北三井家に伝わったもので、「栗鼠瓜」図(左)と「柳下雄鶏」図(右)に「乾隆庚午」(乾隆15年)の年紀がある。

花鳥動物図

沈南蘋・筆/清時代・乾隆15年(1750)/北三井家旧蔵

「第2部 日本の古美術」
(8月1日~8月31日)の展示品

【書籍】

書跡は、「拓本」「経典」「古記録・典籍」「古筆」「墨跡・消息」の5項目に分類されている。古記録の『熊野御幸記』は、後鳥羽上皇による熊野御幸(建仁元年/1201)の際に随行した藤原定家の旅日記(巻物)。井上馨の所有を経て三井家に伝わった。

上皇は10月5日に京都の鳥羽を出発し、紀州路をたどり、熊野三山(熊野・新宮・那智)を参詣して27日に帰京している。日記はその翌日までの23日間を綴っており、上皇の熊野御幸を知る貴重な記録として国宝に指定されている。ちなみに、近年の修理で巻物の裏紙を外したことにより、定家は持参した紙が足りなくなったことから裏側にも記述していたことが判明。これにより、実際に旅の途中で書かれた日記であることが確定的となった。

【能面】

三井記念美術館では、北三井家より寄贈を受けた能・狂言面を約60面所蔵。その大部分が大和猿楽座のひとつである坂戸座の流れを汲む金剛家に伝来した能面である。

孫次郎』は、その金剛流の女面。室町時代、金剛座の大夫である右京久次(後に孫次郎と改名)が夭折した妻を偲んでその面影を写したとの伝承から、「ヲモカゲ」の呼び名で知られている。昭和10年(1935)に旧金剛流宗家より北三井家が譲り受け、昭和59年(1984)に公益財団法人三井文庫に寄贈された。うっすらと笑みを浮かべたような表情は神秘的かつ気品にあふれ、女面の白眉とも称賛されている。

【刀剣】

刀剣としては、短刀の無銘貞宗を紹介する。作者は刀工正宗の養子といわれる相州貞宗。華やかな刃文で、表に不動明王の梵字に素剣(不動明王の化身)と爪(筋状の湾曲した図柄)、裏には金剛夜叉明王の梵字に護摩箸(密教の法具のひとつ)と爪が彫られている。

もともと織田信長の嫡男信忠(本能寺の変で自刃)が所持していたといわれ、その後秀吉の手に渡った。慶長3年(1598)の秀吉の死に際しては、明智光秀後の丹波亀山城主で五奉行の一人でもあった前田徳善院玄以が形見分けに拝領。そのことから徳善院貞宗といわれ、徳川家康、紀州徳川家、西条松平家と伝来した。昭和12年(1937)旧国宝、昭和27年(1952)新国宝指定。

〈右上〉熊野御幸記(国宝) 藤原定家・筆 1巻/鎌倉時代・建仁元年(1201)/北三井家旧蔵
〈右下〉能面 孫次郎 ヲモカゲ(重要文化財) 伝孫次郎・作/室町時代・14~16世紀/北三井家旧蔵
〈左〉短刀 無銘貞宗 名物徳善院貞宗(国宝) 相州貞宗・作/鎌倉~南北朝時代・14世紀/北三井家旧蔵南宋時代・12~13世紀/室町三井家旧蔵

開館15周年記念特別展「三井家が伝えた名品・優品」は、第1部(7月1日~29日)と第2部(8月1日〜31日)に分けて開催され、第1部では東洋の古美術、第2部では日本の古美術が展示される。

最新情報はWEBサイトでご確認下さい

新型コロナウイルス感染拡大防止のため、開催スケジュール・開館日等は変更される場合があります。最新の情報はWebサイトをご覧ください。

http://www.mitsui-museum.jp/

写真提供:三井記念美術館
三井グループ・コミュニケーション誌『MITSUI Field』vol.46|2020 Spring より

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