三井百科・百景

三井の資金で
開設された
三越前駅

日本橋三越の地下「鐵」入口

駅壁面の三本ライン

日本橋三越本店や日本橋三井タワー、コレド室町に直結し、三井にとって最も馴染みの深い駅といえる地下鉄銀座線「三越前」駅。

三越前駅は、昭和7年(1932)4月29日に開業。今でこそネーミングライツや誘致企業の名を冠する名称は珍しくないが、当時、一企業名が鉄道の駅名になったのは例のないことだった。

銀座線は最も古い地下鉄として、昭和2年(1927)にまず上野-浅草間が開通したが、その先に延長するための資金不足に陥っていた。工事を視察していた三井銀行筆頭常務理事・池田成彬が三越の負担で駅を設置するように提案し、三越に直結する駅が計画されたという。また、神田から三越前までの延伸には、三井信託銀行社長・米山梅吉が300万円の融通を引き受けたことが大きく影響しており、その謝礼として米山は開通時の初乗りに招かれている。

そのため、銀座線の中でも他の駅には見られない特徴をいくつも持っており、壁面の三本ラインのデザインは、三越の「三」をイメージしたもの。駅と地下売場を結ぶ通路は、フランス装飾界の権威ルネ・プルーの設計で、大理石の壁面など豪華な意匠を凝らした。 また、駅構内に日本で初めてエスカレータを設置したのもこの駅。因みに日本橋三越本店の店内エスカレータも日本初のもので、大正3年(1914)に登場して話題を呼んだが、9年後の関東大震災で失われている。

(2016年8月5日掲載)

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