三井の歴史にまつわる施設

箱根・松の茶屋

執筆・監修:三友新聞社

公益財団法人三井文庫が保有する箱根湯本の「松の茶屋」。大正時代に建てられた茶屋は三井11家のうち、室町家の居宅兼旅館として近年まで使用され、三井文庫へ寄贈後の平成24年(2012)、国の登録有形文化財に認定された。

仰木魯堂が手掛けた「田舎屋」は入母屋造りの茅葺屋根

松の茶屋は三井合名で理事などを務めた重鎮の一人・有賀長文が大正初期に建てたとされる田舎家で茶室建築の大家・仰木魯堂の名作。茶の湯に造詣が深いことでも知られる室町家の第12代当主の三井高大・姿子夫妻が戦中、疎開先として利用。戦後、建物を譲り受けた夫妻が居宅兼旅館として開設した。

文化人たちのサロンに

建物は田舎家、中央棟、浴室棟、松月の4棟から構成される。屋敷脇にあった松樹から「松の茶屋」と命名された。屋内には表千家に伝来する「残月亭」の二畳敷上段床を取り入れた茶室「残月の間」をはじめ、「霞」「水屋」「卯の花」「柏」「朝霧」「梢」「松」「吉野」などおよそ10間があり、かやぶき屋根の田舎屋は古民家の風情を漂わせる。

「松の茶屋」の玄関へと続く石畳のアプローチ

中央棟は戦後、松の茶屋が旅館として営業するために建てられた客室棟で、田舎屋などの既存の建物と外観の調和を図りながら、照明や建具は洋式の折衷様式としている。八角形の浴室棟には円形の浴槽があり、大きなガラス張りの窓からは箱根の山々の眺望が楽しめる。松月は昭和34年(1959)に移築されたもので、来歴は不明だが、茶室風の意匠を取り入れながら居住性も両立させている。箱根の山々を背景に最高の料理と茶器でもてなす数寄屋造りの旅館は、改築中から評判を呼び、川端康成、谷川徹三、佐藤春夫など著名な文化人が訪れるサロンとなった。

近代和風数寄屋普請の最後の名作

松の茶屋は平成16年(2004)まで営業を続けたが、三井夫妻の死去後の平成21年(2009)、三井文庫に移管され、平成24年には国の登録有形文化財に指定された。三井文庫は老朽化した松の茶屋の保存公開事業を開始。「近代和風の数寄屋普請として最後の名作」とされる建物は修復され、現在は地元の箱根町教育委員会が主催する文化財探訪会のコースに組み入れられ、部分的に公開されている。

INFORMATION

松の茶屋

[所在地] 神奈川県足柄下郡箱根町湯本字上町518-1