三井百科・百景

日本刀の鍛刀技術を
継承する日本製鋼所

打ち初め式での鍛刀の模様

明治40年(1907)に設立され、100年以上の歴史を誇る日本製鋼所の室蘭製作所。世界最大級のプレス設備などを有する国内屈指の素形材工場だが、その敷地内では刀匠の堀井家により、90年以上にわたり日本刀作りが続けられている。毎年正月に行われる打ち初め式の模様は北海道で必ずニュースで流れるほどで、地域では恒例行事のひとつとなっている。

大正7年(1918)、近代化により衰退していた日本刀の製作技術の保存・向上のため、「瑞泉鍛刀所」が建設された。日本刀の技術は鋼の技術のルーツとも言われ、日本製鋼所のものづくりの象徴でもある。鍛刀所には堀井家の名刀を展示する資料館が併設されており、一般に開放されてはいないものの、工場見学に伴っての見学が可能。また、室蘭製作所事務所のロビーには月替わりで日本刀が展示されている。

初代当主は戦時中に名工と謳われた堀井家3代目の俊秀氏。現在はその孫の胤匡氏が4代当主を務めている。弟子の佐々木胤成氏は博士号を取得しており、科学的見地からも日本刀製作の研究に取り組む。平成20年(2008)に鍛刀所が90周年を迎えた折には、記念の銘を入れた短刀と脇差が製作された。刀を一振り鍛えるのには20日から1カ月ほどかかり、瑞泉鍛刀所では年間10振り程度の刀を受注生産しているが、現在は1年半待ちになるほど愛好家などからの注文が集まっているという。

(2012年10月12日掲載)

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