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三井グラフ バックナンバー

三重県熊野市・魚作商店
冬の熊野 でとれる脂の抜けたサンマを使う丸干し。
熊野の自然によって守られる伝統の味。


 塩焼きで食べることが多いサンマは、一般的には脂の乗った秋が旬。しかし、三重県熊野市では冬のサンマを待ちわびる。毎年12月上旬頃から熊野灘でとれ始めるサンマは、南下してくる途中で脂がすっかり落ち、ほっそりとして小ぶり。これが「サンマの丸干し」には向いていて、寒サンマの天日干しは熊野周辺の冬の風物詩。近所の漁師から分けてもらったサンマを庭先につり下げている民家も多い。地元のもう一つの郷土の味覚「さんま寿司」もこの脂の抜けたサンマならではのクセのない味わいだ。
 海産物加工の「魚作商店」は大正9年の創業。3代目の竹内誠一さんは「熊野で水揚げされる魚は、干物の素材として特に珍しい種類はないが、丸干しに適したものが多いんです。サンマ、ウルメ、カタクチはもちろん、アジの丸干しも、この辺りでは昔から好まれています」と話す。
 魚作商店の工場兼店舗の後ろには、新鹿海水浴場の美しい白浜が広がっている。冬は雨が少なく、雪もほとんど降らない。そして、丸干しづくりには欠かせないのが、西側の山から吹き下ろす冷たく乾いた風。日中と夜の寒暖差も丸干しの味に微妙な影響を及ぼしているらしい。
「この新鹿の自然、漁師さんたち、先代の知恵があっての干物づくりなので、自分たちができることは知れていますが、最も気を使うのは塩加減。丸干しは開き以上に、魚の大きさや肉質に合った塩加減が難しいんですよ」
 上質の寒サンマが水揚げされるのは二木島漁港。小さな入り江の港で、豊漁の日は場内に収まらないほどのサンマが並べられる。その中で、丸干しの加工業者が仕入れるのは早朝の網にかかったサンマ。胃の中が空っぽの状態なので、乾かしたときに腹がよく締まる。
 市場から運ばれた新鮮なサンマは、内臓をとらずに、そのままもみ塩機に入れて塩でもむ。木製のドラムを回転させると魚がこすれ合い、ウロコがとれて、干物にしたときにきれいな青みのある銀色に仕上がる。以前は畳一畳ほどもある浅い木箱(もみ板)に入れて、その木箱を大人4人が持ち上げて揺らす重労働だったとか。
 塩をしたサンマは一晩、重しをして漬ける。魚から出た水分で、翌朝はちょうど塩汁に浸した状態になっている。それを手際よく尾の部分に金串を刺して10匹ほどを束ね、よく水洗いした後、魚同士のすき間をつくりながらラックにつり下げる。サンマの頭を下にするのは、干している間に口から余分な脂や内臓の中のものが溶け出すからだ。
 いきなり天日に当てると魚が反り返ってしまうため、最初の1日は冷風乾燥機で表面を乾燥させる。曲がっていても味に変わりはないが、野菜と同様に見た目も商品価値を左右する。その後、魚作商店では工場の屋上に、サンマの腹の部分を日の当たる南に向けて天日干しする。天候や魚の大きさにもよるが、この状態で2、3日乾燥させて丸干しが出来上がる。
「こうやって天日に干すのは12月から2月の間だけです。天日干しというといいイメージがあるけれど、天候次第なのでリスクが伴い、また、アジの丸干しなどは魚体の黄色が消えて全体に黒っぽくなってしまう。機械乾燥のほうが早く乾くので、見た目も味も生に近い干物になります」
 最近は丸干しも生に近いやわらかなものが好まれるが、昔からのファンは、骨ごと食べられる小さめのよく干したサンマを好む。ハラワタのほどよい苦みがうまみを引き立て、噛めば噛むほど味が出る。塩が強めの丸干しは、ほぐしてお茶漬けにして食べてもおいしい。
 魚作商店の干物は、自家製のみりんタレを使ったアジ、ハギ、フグ、タチウオなどのみりん干しも人気。各地の旬の魚を仕入れ、魚本来のうまみを消さない味に仕上げている。ご飯が進む一品だ。
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